パァァァン!!!
何かが爆発したような大きな音で、キルルは目を覚ました。
「キルッ!?」
「キルル、おはようございます!」
座って眠っていたキルルが顔を起こすと、目の前にはミララの満面の笑顔。
そして彼女が手に持っているのは発射済みのクラッカー。
「・・・・・・キル・・・」
目が半開きのキルルは、不機嫌そうに鳴いた。
「・・・あっ、やっぱりいきなり起こされて、いと怒ってます?」
「・・・・・・・・・」
表情には出しておりませんが、鋭く突き刺してくるようなオーラが沸き立っております。
物凄く怒っていらっしゃる破壊神様を目の前に、怒らせた張本人は、
「わわっ、ごめんなさい・・・でも、そんなに怒らなくてもいいじゃないですかっ。
キルル、もう500年くらい眠りっぱなしだったんですよ?さすがにいと長すぎじゃないですか?」
ちょっと怯えていた。しかしだからと言ってドッキリみたいなサプライズ的起こし方はどうなのか。
「・・・・・・・・・」
とりあえず、キルルの怒りはあっさりと収まったようである。
「・・・キルキルキルキル?」
『で、さっきのクラッカーは一体何だ?』キルルはそう尋ねた。
「・・・えっ?そんなの決まってるじゃないですか」
「・・・・・・・・・?」
分かっていることをさも当たり前のように言うミララと、全く分かっていないキルル。
「誕生日ですよ。あなたと私の」
「・・・・・・・・・?」
「だーかーらー、
丁度10000年前の、さっき私がクラッカーを鳴らした時刻ピッタリに、
私とあなたが、ケロン星の研究施設の中で目覚めたんですよ」
「いつもは誕生日なんて毎年毎年祝ってたらキリがなくなるから特に何もしていなかったんですが、
やっぱり10000歳ぴったりともなると祝いたくなるじゃないですか」
「・・・・・・キルキル?」
「ええ、確かに今日ですよ。私の時間感覚が狂っていなければ」
「・・・・・・・・・」
「いと感慨深いですか?」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・いとどうでもいいですか?」
「キル」
キルルは、すぐに一言鳴いて首を縦に振った。
「えーっと・・・そんなこと言わずに、もっとお祝いしましょうよ。
10000歳の誕生日なんて、滅多に祝えるものじゃないんですよ?」
「・・・・・・・・・」
「・・・とは言っても、お祝いグッズなんて他にないんですよね。
・・・ケーキとか・・・10000本のロウソクとかあったらいとよかったんですけど・・・」
「・・・・・・・・・」
「キルルは10000本のロウソクに火を点けて、吹き消してみたくありませんか?
私、ちょっとやってみたいんですよ」
「・・・・・・・・・」
キルルは首を横に振った。
「うーん・・・いと盛り上がりませんねー」
「・・・キルキル?」
『もう寝ていいか?』そう言ったキルルにミララは、
「ダメです。今日くらい2人で一緒に過ごしましょうよ。
だって私が目を覚ました時はいっつもキルル寝てるんですから・・・。
キルルはどうかわかりませんが・・・1人だけで起きてるのって、いと寂しいんですよ?」
その声は後半になるにつれて小さく、弱々しくなっていった。表情も暗い。
「・・・・・・・・・キル」
「だから、今日1日くらい、私に付き合って下さい。たまにはいいじゃないですか」
「・・・キル」
キルルははっきりと頷いた。
「とは言っても、本当にすることがないですよね・・・。
ここにある遊び道具といったら、トランプとかくらいですし・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・久しぶりにやりますか?トランプ」
「・・・・・・キル」
「そうそう、私ちょっとトランプを切る練習したんですよ。
私が下手なせいで、いつもキルルに切らせてばかりでしたから」
「・・・キル?」
ミララの左手には使い古され縁がボロボロに磨り減っている、
ケロン星を発つときにミララがどこからか持ち出してきたトランプが握られていた。
太古のケロン星にもトランプは存在していたようだ。な○でも鑑○団あたりに出せば相当な値がつくだろう。
「では、行きますよ・・・」
左手にトランプを乗せたミララは、右手に全神経を集中させ、
「てやっ!」
気合が入った声とともにシャッフル開始。そこで声を出す必要は全くない。
シャッシャッシャッシャッとミララはなかなかの速さでトランプを切っているが、
どこかぎこちなく、今にも手が突っかかりそうである。
「・・・キル・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
ミララの表情はやけに真剣で、瞳はトランプのみを見つめていた。額から一筋の汗まで垂らしている。
そして、
「あっ!」(バサバサバサッ)
手をすべらせたミララ。トランプの山は崩れたと言うよりもむしろ爆発し、辺りにトランプが舞い散った。
それも普通に切っていたのなら考えられないほどにハデに。どう見ても気合の入れすぎです。
「・・・練習・・・したんですよ?」
「・・・キル・・・」
「キルキルキルキルキル・・・」
「・・・・・・・・・」
結局トランプはキルルが切ることとなり、ミララは鮮やかにトランプを切っていくキルルを落ち込みながら見ていた。
「キルキルキルキルキル・・・」
何故かキルルのトランプをシャッフルする腕はプロ級である。一体何の役に立つのだろうか。
「・・・どうしたらそんなにいと上手く切れるんですか?」
「・・・・・・・・・」
キルルは答えずに、手際よくトランプを配っていった。
その後、キルルとミララはババ抜きを10セット(ミララがすぐ顔に出すためキルル圧勝)、
大富豪を10セット(2人だけなので革命ばかりの何転もする白熱した試合展開。でもキルル圧勝)、
神経衰弱を10セット(やっぱりキルル圧勝)と遊び倒したキルルとミララは、
「・・・もう止めましょうか」
「キル」
ただミララがもっと落ち込んだだけという結果でトランプ遊びに幕を閉じた。
「そういえば、もう10000年近く経っていたんですよね」
「キル?」
「いや、私たちがペコポンに来てからですよ」
トランプをしまったミララは、突然話し始めた。
「今外ではどうなっているのでしょうね。あのいと野蛮なペコポン人達は結局絶滅してしまったようですし・・・」
「・・・・・・・・・」
ミララが言うペコポン人とは恐竜のことである。
約10000年前、キルルがその力を思う存分発揮したおかげで、
当時地球を支配していた恐竜達は絶滅、生き残りがいたとしても長くは生きられなかっただろう。
そしてその制御不能っぷりを見たケロン軍はキルミラを見捨て、宇宙警察と共にペコポンに封印した。
「新しいペコポン人と言えるような生命体が現れるには、まだまだいと時間がかかりそうですしね。
もしかしたらその時が来る前に、何かの拍子でこの封印が壊れちゃうかもしれませんね」
「・・・・・・・・・」
「まあ封印が壊れたとしても、私たちはケロン軍から見捨てられてますから、
無理に命令に従う必要も・・・この星を侵略しなくてもいいわけですけど。それでもこの星を侵略するんですか?
・・・なんて、あなたにはそんなこと、いと些細なことでしょうね」
この星の生命を破壊し侵略することこそが、実行する者、キルルが存在し、この星に送り込まれた理由だから。
「・・・・・・・・・」
「変なことを聞いてごめんなさい。でも、私時々思うんですよ。
あなたと、こんな封印の中じゃなく外の世界で、
侵略とかなんて考えないで、ずっと普通に暮らしていくことができたらいとよかったのにって」
「・・・・・・キル?」
「何でかって?・・・何ででしょうね?
でも、人は自分が持っていないものに憧れるものだって、ケロン星で誰かが言ってた気がします」
「・・・・・・・・・」
「・・・って、私たちは人じゃなくて、侵略兵器でしたね」
その後はひたすらに無音だった。2人とも、声を発することもなければ音を出すこともなく。
ミララはずっと何かを考えているような顔で、キルルはそんなミララを、ただじっと見ているだけ。
そんな時がしばらく続いた後、
「・・・キルル、もし、もしもですよ?」
ミララは真剣な顔でそう切り出した。
「キル?」
「もしこの星が消えてなくなる・・・爆発か何かするまでこの封印が解かれなくて、
その時になってようやくこの封印が解かれたとしたら、
もうこの星には破壊すべきものは何もないし、この星を侵略することもできないですよね?」
「・・・・・・・・・」
「そうなったら、あなたはどうするのですか?
他の適当な星に渡り、破壊し、侵略するのですか?」
ミララはキルルの方を向き、キルルの目をしっかりと見つめた。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
少しの沈黙の後、キルルが出した答えは、
「・・・・・・・・・キル」
「・・・そうですか。わかりませんか・・・」
「・・・キルキル?」
「えっ?私はどうするのかですか?」
「キル」
「あなたがどこに行こうとも、そこで何をしようとも、
何万年、何億年経とうとも、ずっとあなたの傍にいますよ。
私は審判を下す者、あなたと2人で1つの存在ですから。それに・・・」
キルルの問いに、ミララははっきりと答えた。
その表情は、どこまでも優しくて、温かかった。
「・・・・・・キル?」
キルルを見つめたまま続きを言わないミララに、キルルはその続きを尋ねた。
「私は、あなたが大好きですから」
キルルを一万年もの間見てきたミララには、他の誰かがそれを見ても全くわからないだろうほどにだったけど、
キルルの無表情の仮面がほんの一瞬だけ、本当にごくわずかに崩れたように見えた。
ミララはキルルから何かはっきりとした返答が得られることは全く期待していなかったし、それでも構わなかった。
2人はしばらくの間、ただ見つめあっていた。
「そうそう、そういえばまだ言ってませんでしたね」
「キル?」
「ハッピーバースディ、キルル。
これからも、ずっと一緒にいましょうね」
キルルは、一言鳴いて首を縦に振った。
あとがき
色々と中途半端。トランプ云々はケロロランドの4コマでトランプ切ってるキルルが気に入ったから。
どうでもいいけどこれを書き終わったのはクリスマスイヴの深夜だったりする。何やってんだろう。
タイトル元ネタ … 川嶋あい