特に理由はなかった。
することもないし、ただなんとなく屋根に登って空を見上げてみたら、そこは満天の星空だった。
あまりのキレイさにちょっとボーッと見とれてたら、
「あれ?隊長殿でござるか?」
声のした方を見て、隣の家の屋根に青い影が立っていたのに気づいた。
「隊長殿がこのような時間に屋根の上にいるなんて、珍しいでござるな」
「まぁーねー」
「いつもの隊長殿なら、この時間はテレビを見ている頃のはずでござるが・・・今日は見ないのでござるか?」
「・・・それが、今日特番で見たい番組がツブれちゃってさー・・・。
で、たまにはこういうことしてみるのもいいかなーって思って」
「そうでござったか」
成り行きで、今我が輩はドロロの横に一緒に座っている。
我が輩は足を伸ばしてリラックス。ドロロはいつもの正座。
地球に来てからドロロって正座ばっかりしてるけど、疲れないのかなー、とか思った。
我が輩だったら多分5分も持たないであります。
「で、ドロロは何で屋根の上にいたのでありますか?
いつもの座禅だか精神統一だか何だかっていうやつ?」
「いや、今日は星がいつもよりも一際綺麗に見える夜であった故、
是非とも近くで見たいと思ったのでござるよ」
「そうでありますか」
我が輩は『いつもの』夜空をあまり見たことがないけど、
ドロロが言うとおり、今日が特別星が輝いて見える夜であることは、空を一目見た瞬間に分かった。
あまりの美しさに、見ているだけで自分がこの広く美しい大宇宙に包まれているように感じる、なんて柄じゃないことを思ってみたり、
この星空を全部我が輩の物にしたい、なんて子どもっぽい事も思ってみたり。
「本当に美しい星でござる。この地球は」
地球大好きっ子のドロロはそんなことを言っている。
「このような星空が見れるのは、宇宙の星々を探しても、そう多くはないでござろう」
「ふぅ〜ん・・・・・・あ、でもさ」
「どうしたでござるか?」
「ケロン星でもさ、これくらいにキレイな夜空を見たことがあったじゃん。我が輩もあまりよく覚えてないけど」
「・・・・・・?」
「ホラ、夏休みの自由研究で、我が輩とギロロとドロロで星座を調べようって話になって」
「・・・・・・あ!そういえば!」
「思い出したでしょ?それで夜中に皆で家をこっそり抜け出して」
「そうそう!午前2時に踏み切りに集合だった!」
「そんでギロロが兄ちゃんの望遠鏡だってすっごい本格的なやつを持ってきて!」
「学校の屋上で天体観測!思い出した思い出した!
あの時の星空も、この空に負けないくらいすっごくキレイだった!」
「いや〜、あれは子どもながらに深く感激したでありますよ。
あんな星空見たのは生まれて初めてだったでありますからなぁ」
「それで、あまりにもキレイだったものだから、
ケロロ君が『この星空をいつか全部オレのものにしてやる!』なんて言い出したんだよね」
「へ!?そんなこと我が輩言ってたっけ?」
「うん。言ってた言ってた」
ドロロは自信満々にそう言った。
我が輩、子どもの頃から少しも変わってないじゃん。
「そういえばケロロ君、あの時に勝手に持ち出した学校の屋上の鍵、
確かあの後返してなかったよね?あれどうしたの?」
「・・・・・・覚えてないであります」
「それにしても、本当にキレイな空でありますなぁ」
「そうだね」
さっきの思い出話の時から、ドロロはずっと昔の喋り方のままだ。相変わらず座り方は正座だけど。
「ドロロ、星空を間近で見たかったって言ってたけど、
西澤タワーに行ったほうがもっと近くで見れるじゃん。行かないのでありますか?」
「さっきまで行こうかなって思ってたけど、ケロロ君に会えたし、やっぱりやめた」
「別に我が輩は西澤タワーまでついて行ってもいいんでありますよ?」
我が輩にもこの空を近くで見てみたいという思いはある。
「う〜ん・・・でも、やっぱりいいや。ケロロ君に迷惑かもしれないし」
「そうでありますか」
迷惑でも何でもないし、少し残念だったけど、ドロロがそう言うなら。
「あ!流れ星!」
ドロロが突然斜め上を指差した。見るとそこには確かに一すじの光が。
「あっマジだ!お願いしなきゃお願い!えーっと・・・」
夏美どのに取られたガンプラが戻ってきますよーに。
ガンプラが戻ってきますよーに。
戻ってきますよーに。
よし、消える前に3回言えた。内2回は略したけど、これくらいは許容範囲だろう。
子どもの頃から流れ星が消えるまでに3回願いを言うことには自信がある。
「ドロロは何をお願いしたの?」
目を閉じて手を合わせ更に正座。まるで仏様にお願いしているかのようなポーズをしているドロロに聞いてみた。
「え?えーっと・・・」
目をパチッと開けたドロロはうろたえ、顔が赤くなっている。
ドロロが何をお願いしたのかすぐに分かった。こいつのこんな様子は、子どもの頃から見てきたから。
「ケロロ君・・・たちと、ずっと友達でいられますように・・・って・・・」
ほら来た。ドロロは流れ星にいつもそんな事を願っている。
しかし意外だ。今のドロロなら『地球がずっとキレイなままでありますように』とか、
『地球から争いがなくなりますように』とか、ペコポン絡みの願いをするって思ってたのに。
「地球のこととどっちにしようか頭ではちょっと迷ったんだけど・・・
咄嗟に口から出たのはそっちの願いだった」
本人曰くそういうことらしい。
いつものことだけど、うんざりするくらい言われてるけど、そこまで大切にしてるって言われるとやっぱりうれしい。
で、
「じゃあさ、今落ちたあの星を拾ってきてくれたら、ずっと一緒にいたげるってのは、どう?」
なんてイジワルを言ってみる。
しかしドロロももう慣れたもので、
「そんなこと、いくら僕でもできるわけないでしょ。ケロロ君」
とすぐに笑って返してくる。
始めの頃、ドロロがまだゼロロだった時は、我が輩がそうやってイジワルを言うと、
ゼロロは決まって「ええっ!?」って驚いて、どうしたらいいのか真剣に悩んだり、泣き出したり、
時には本当にやってみせようとしたり・・・。
我が輩の冗談のために困っているゼロロは、正直言って凄く好きだった。
・・・あ、いや、別にSだとかそういう意味じゃないデスヨ?
到底無理だって誰が聞いてもすぐにわかるような話を、骨の髄まで純真なゼロロは真面目に考えてしまう。
そんな純粋で汚れなんて全くないゼロロが、我が輩には輝いて見えていた。
それで、ゼロロがアサシン科に行くって話を聞いた時は、本当に驚いた。
アサシン科はエリート中のエリート。
普通の歩兵コース(我が輩はそっちに行ったんだけど、十分キツかった)とかとは比べ物にならないくらい厳しいということは、
小訓練所の子ども達には常識で、当時の我が輩ももちろん知っていた。
ゼロロがそんなところに行けるようになるまで強くなったのは
我が輩の『おかげ』・・・ってか我が輩の『せい』だって後から知って、
なんか悪い事しちゃったかなってちょっと罪悪感を抱いたりした(ウソじゃないでありますよ?)
でも後から、アサシン科に行ったのは周りの声とかじゃなくてゼロロの意思で、
しかもその主な理由が『もっと強くなってケロロ君たちを守りたかったから』だったって聞いて、
お前は何でそんな呆れちゃうくらいに純真なんだよって言いたくなった。
こいつの頭の中で我が輩はどんな存在になってんだよって思った。
けど、我が輩はそんなゼロロが大好きだった。
「ドロロも大人になったんでありますなぁ」
「え?どういうこと?」
「いやいや、なんとなくそう思っただけでありますよ」
「ねぇ、ケロロ君」
「何でありますか?」
「流れ星を取ってくることはできないけど、僕はずっとケロロ君の傍にいたい。
ダメ?」
ドロロは今までに、昔から何度も言っているようなことをまた口にした。
我が輩もドロロのこんな問いに今まで何度も、同じことを答えてきた。
だけど、なぜか今日は言葉が出てこなかった。我が輩はドロロの瞳に見とれていた。
優しくて淡くてキレイな青色の、真っ直ぐでくもりのない瞳に。
「・・・ダメなの?ケロロ君・・・」
ってボーッとしてたらドロロが不安そうな声で聞いてきた。早く答えないとまずい気がする。
「ダッ、ダメなわけないじゃん!オーケーだよオーケー!」
「・・・ホントに?」
「ホントだよホント!何度も言ってるけど、我が輩はいつだってドロロの友達であります!」
それを聞いたドロロの顔はパァッと明るくなった。
「そ、そうだよね。何度も同じこと言わせちゃってごめん。
あのね、ケロロ君。色々なことがあったけど、僕はケロロ君と友達になれてよかったって心から思ってる。
この広い宇宙で、ケロロ君にめぐり合うことができて、一緒にこんな時を過ごせる奇跡に感謝してるんだ」
どうしてかわからないけど、さっきから我が輩の胸がいつになく高まってる。
周りがいつになく静かだから?そんでもって、満天の星空の下っていう最高のムードの真っ只中だから・・・?それとも・・・。
「ありがとう、ケロロ君。僕の友達でいてくれて」
ドロロは我が輩にそうお礼を言った。
何でドロロはこんなにひたすらに我が輩のことを思ってくれてるんだろう。
「べ、別にお礼なんて・・・
・・・お礼を言いたいのは、我が輩も同じであります」
「え?どうして?」
「どうしても!!」
普通に聞いてきたドロロにキツめの口調で返してしまった。
我が輩もドロロと気持ちは同じだ。
ドロロとずっと一緒にいたい。こんな輝く星空の下で、ドロロと一緒に笑いあってたい。
「ふ〜ん・・・わかった」
何がわかったのかはわからないけど、ドロロは満足そうだった。
「ねぇ、ケロロ君。
僕たち、ずっと、ずっと友達だよね」
ドロロがまた同じことを聞いてきた。
真っ直ぐで迷いがない瞳が我が輩を見つめている。
やっぱりドロロも何も変わっていない。
いつだって真面目で、骨の髄まで純真で、輝いているゼロロのまま。
そして、我が輩はそんなゼロロが、ドロロが大好きだ。
「もちろんでありますよ。
流れ星なんか、要らないであります」
町を包む夜空の中、星が輝いていた。
・・・そういえば。
「・・・あのさ、ドロロ」
「何?」
「夏美殿に取られた我が輩のガンプラ」
「それはダメでござる」
「ってまだ最後まで言ってないじゃん!
ドロロなら簡単だろうし、それくらい別にいいでしょ?」
「ダメでござる」
「ケチ!」
「ケチでござる」
あとがき
途中の天体観測云々は単なるノリで入れた。
なんていうか、こういう話は気分がノッてる時に一気に最後まで書いたほうがいいと思った。
普段のテンションじゃ恥ずかしくてとてもじゃないけど書けないよこんなの。
タイトル元ネタ … 小松未歩
この歌は凄くケロドロだと思う。