「・・・はい・・・はい・・・了解・・・」
通信機での会話を終えたゼロロは、ピッという音と共に通話を切り、後ろで座っていたケロロの方に振り向いた。
「・・・大丈夫?ケロロくん・・・」
「あー、平気平気。ダイジョブだから」
心配そうにケロロを見つめるゼロロに対し、ケロロはすくっと立ち上った。
「ほらほら、これくらいなんともないでありま・・・」(クラッ)
「うわわっ!」
全身で無事をアピールしていたら倒れたケロロをゼロロが咄嗟に受け止める。
ケロロの胸からは止まっていた血が再び流れ始めた。
「もお・・・安静にしてないとダメじゃないケロロくん・・・
一応応急処置はしたけど、凄く血が出てたんだから」
「ゲ、ゲロ・・・面目ないであります・・・」
ゼロロはケロロを再び大きな岩によりかからせ、座らせた。
「今救護班呼んだから、もう少ししたら来てくれるから」
「そうでありますか・・・」
ケロロとゼロロがいる場所は、ついさっきまで戦場のど真ん中だった場所。
単独行動を取っていたケロロはここで敵兵集団に遭遇。そして撃たれ、ずっと気を失っていたのであった。
「命に別状はないって。良かったね、ケロロくん」
「いやはや、心配かけてすまないであります」
「謝ることなんてないよ」
ここはケロン軍前線基地の救護用テント。
今ここにいるのは、傷の治療が終わりベッドに横たわっているケロロと、その隣に座るゼロロのみである。
「・・・2人きりなんて、久しぶりだね」
「そういえば、そうでありますな」
ケロロの表情が少し緩んだ。
ケロロ、ゼロロ、加えてギロロは幼い頃はよく一緒に遊んでいたのだが、
ゼロロが暗殺兵養成の施設に通うために、
3人が住んでいた所から遠く離れた地に行ってしまってからは全く会えなくなってしまい、
また、軍人になってから今までに何回か任務で一緒になったことはあったが、
特殊活動兵であるゼロロは別行動を取る事が多く、2人は大人になってからもなかなか顔を合わせられないでいた。
「なんか、懐かしくなってくるね」
ゼロロは、笑顔でそう言った。
「覚えてる?僕とケロロくんとギロロくん、朝早くに3人で、初めて虫を捕りに行った時の事。
ケロロくんが『こうすれば待ってるだけでオッケー!』とか言って、全身に樹液を塗りたくっちゃったりして」
「・・・そんなこともあったでありますな」
「それで、『オマエもやれよー!』って僕にも樹液を塗って、
そしたら僕の方にばっかりカブトムシとかがやって来て・・・。
たくさんのムシが僕の上で這いずり回って、凄く気持ち悪かったなぁ・・・。
で、ケロロ君がそれを全部捕ろうとして僕ごと網で捕まえたり・・・」
「・・・・・・ゼロロ?」
「その後、やっぱり僕だけが樹液でカブれて、
川で洗い流そうとしたらケロロ君がふざけて、僕を滝つぼの方に」
「だぁーーーーっ!!!!ちょっとストップストップ!!」
「え?」
だんだん陰鬱なドス黒い空気が沸き出てきていたゼロロをケロロが大声で止めると、陰鬱オーラは引っ込んだ。
「もっとこう、さ?思い出話するんならさ?楽しい話題にしようよ。ね?
そっちの方がいいでしょ?」
「う、うん・・・。じゃあ、遠足で、弁当を忘れちゃった僕にケロロくんとギロロくんがおかずを分けてくれたこととか・・・」
「そうそう、そういうの!」
「それで、ケロロくんが自分の食べられない物を僕に押し付けてきて、
僕が嫌がったら『多分美味しいから!』って無理やり食べさせようと」
「ってやっぱその話ダメーーーーー!!!!!」
その後もゼロロは、楽しい思い出を語ろうとしていきなり急転直下なことを思い出し、
トラウマスイッチが入りそうになるゼロロをケロロは何度も呼び戻すハメになった。自業自得である。
「・・・ま、何だかんだで色々あったけど、楽しかったよね?あの頃は」
「・・・うん・・・」
ということで、ケロロとゼロロは思い出話に幕を閉じた。というかケロロが無理やり終わらせた。
「そう、本当にあの頃は楽しかったでありますなぁ。
将来のことなんて、今の我が輩たちの現実なんて、想像もつかなかったくらいに」
「・・・ケロロくん・・・」
ケロロとゼロロは、兵士となった。
星のためと自分に言い聞かせ、戦場に赴き、人を殺し、悲しむ人を増やしていく兵士に。
「こないださ、『家には妻と幼い子供が』って命乞いしてくる奴がいたんだよ。
で、上官は殺せ殺せとしか言わないでしょ?ホント、我が輩どうすりゃいいのって話だよ」
「・・・それで、どうしたの?」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
2人は黙った。
「・・・ところで、一つ気になっていることがあるのでありますが」
「・・・何?ケロロくん」
「・・・あれは・・・あのたくさんの死体は・・・ゼロロがやったのでありますか?」
ケロロは、自分が目を覚ました時、目の前に広がっていた光景を思い出していた。
ケロロとゼロロの周りには、血の匂いしかしない、膨大な死体の山。
ケロロを撃った敵の部隊の、変わり果てた姿があった。
「・・・・・・・・・うん」
ゼロロは首を縦に振った。
「僕の任務が終わって、本部に帰ろうとしたら、
ケロロくんが撃たれてるのを見つけて、それで・・・」
「・・・あの人数を、1人でやったのでありますか?」
死体の数は、ざっと数えただけでも数十体。
「・・・・・・うん」
「・・・・・・はー・・・」
ケロロは大きな溜息をついた。
「ゼロロはスゴいでありますなー。
不意打ちされたとはいえ、我輩を殺しかけた連中をあっという間にでありますか。
しかもあの人数。スゴくね?」
「べ、別に、あっという間にだなんて僕一言も・・・」
「子供の時はさー、我輩の方が体力もあって運動もまあできる方だったのにさー?
ゼロロは運動てんでダメだったのに、すっかり抜かれちゃったでありますなー」
ケロロはゼロロの発言を遮り、どこか投げやり気味にそう言った。
ゼロロを強くしたのはケロロのいじめ的な遊びのせいなのであるが、
ゼロロにその事を思い出させたら確実にトラウマスイッチが入るので、思い出させない方が良いであろう。
「い、いや、そんなことないよケロロくん!」
なぜか焦り気味にそう言うゼロロ。
「慰めは結構。どうせ我輩は弱い役立たずな奴でありますよー。
そういえば、ギロロも大活躍してるって聞いたでありますなー。何?ダメダメなの我が輩1人だけってこと?」
引き続き投げやり気味にそう言うケロロ。
「だ、だから・・・」
「それに、
我が輩にはあんなこと、怖くてできないでありますよ」
「・・・・・・・・・」
「ゼロロってさー、昔はムシも殺せない・・・っていうか、ムシに負けるような奴だったのに、今は・・・」
突然テント内の空気が変わった。
ケロロはもう一度その時の光景を思い返した。
死臭を放つ死体の山が一面に広がっている、地獄のような光景。
「・・・・・・もう、慣れたよ」
「・・・慣れた?」
「うん。慣れた」
ゼロロの声、そして顔からは、感情らしいものは消えていた。
「・・・始めはさ、凄く怖かったんだ。
僕のせいで何人も、何人も死んでるんだって考えたら、どうしようもなく嫌になって、死にたくなることもあった。
・・・でも、いつの間にか何も感じなくなってた。何人殺しても、何人の血を見ても」
ゼロロは淡々と続けた。
「・・・・・・そうで、ありますか」
ケロロは、ただそう言った。
「・・・辛くはないのでありますか?」
「・・・自分で決めた道だから、仕方がないよ。
それに、」
「ゲロ?」
「子どもの時、ずっとやりたくてもできなかった事ができるくらい強くなれた。
だから・・・」
ゼロロの顔には強い意志のようなものが映し出されている。
それは幼い頃の弱々しかったゼロロからは想像もつかないような表情だったが、
ケロロにはその幼い頃のゼロロの純真でまっすぐな表情が、その顔と重なって見えた。
「・・・・・・ゲロ?」
「・・・何でもない。気にしないで」
「・・・何、そのやりたかったことって」
「秘密」
「・・・秘密ってナンだよ。我輩にも秘密なの?」
「・・・秘密」
「え〜、ケチ。ちょっと教えてよゼロロ〜。
誰にも言わないからさ〜」
ケロロはベッドから起き上がってゼロロの方に近寄り、腕を伸ばした。
「え、ちょっとケロロく・・・」
「いいじゃ〜ん、別に。減るもんじゃないデショ?」
「ちょ、ちょっとケロロくん!安静に!安静に!!」
ケロロの手は既にゼロロの肩にかかっており、ゼロロをゆさゆさと揺さぶっていた。
「ねぇ〜・・・ってうわっ!」
「わわっ!」
バランスを崩したケロロがゼロロの上に倒れこんだ。
支えきれなかったゼロロも一緒に倒れこんだ。
「・・・・・・はは・・・ははは・・・」
「ゲロッ?」
「あはははは・・・!はは・・・!」
「何々?どうしたの?」
ゼロロは突然笑い出した。とても楽しそうに。
いつの間にか、ケロロもつられて笑い出し、救護施設に2人の笑い声が響いた。
「はー、我輩ももっと強くなんなきゃなー。ゼロロには負けてられないであります」
「強くなれるよ、ケロロくんも。僕だって強くなれたんだから」
「そうでありますな。ま、イヤとか言ってても仕方ないよね。仕事なんだから」
「・・・・・・・・・」
「・・・ゲロ?ゼロロ、そのケガどしたの?」
ふとゼロロの顔を見たケロロは、ゼロロの顔に殴られたような跡があることに気付いた。
「あ、これ・・・
実は、任務終わったら次の任務があるかもしれないから、
本部に戻る事を最優先としろと言われてたのに、破っちゃったから・・・」
「怒られちゃったの?上官に?」
「うん・・・」
消え入るような声でゼロロは答えた。
「うっわ、何その融通の利かない上官!
我輩が上官だったらさー、我輩を助けてくれるような部下は褒めちぎっちゃって優待しちゃうのにさ?
上官って皆頭固くてホント嫌になっちゃうでありますなぁ。そう思わない?」
「え、でも、指令守らなかったのは僕が悪いんだし・・・
軍全体にも影響が・・・」
「この前だってさー、我輩がせっかく隊の先頭に立って、イヤな事までやって活躍したのにさー?
命令違反とかバッカじゃないの?大体さー・・・」
いきなり自分勝手なことを言い出し、愚痴り始めたケロロ。その愚痴は延々と続いた。
ゼロロは愚痴るケロロをなだめようとしたが、ケロロはそんなことは聞いちゃいないらしく、効果は見られなかった。
そして、
「よっしゃ、決定!!」
「え、え?何が?」
突然ケロロが声を張り上げた。驚くゼロロ。
「我輩もゼロロに負けないくらい、ってゆーかゼロロよりも強くなって、
これでもかって言うほど成り上がって、ゼロロの隊長になってやるのであります!
そんでもって、誰もイヤな思いをしないような画期的侵略方法でバカ上官達をあっと驚かせ!
そしてゼロロにこう命令するでありますよ!!」
ケロロは息を吸い込み、こう叫んだ。
「何があっても、『 我 輩 と 』他の仲間たちの安全を何よりも最優先にすべし!!」
ケロロの突然の叫びに、ゼロロはポカンと呆気に取られた顔をした。
「これは未来の隊長の命令であります!・・・・・・返事は?」
「・・・・・・・・・」
「返事!」
「・・・・・・了解・・・!」
ゼロロは笑顔で敬礼し、答えた。
数年後、後に「あの頃ケロロ」と呼ばれるケロロの黄金時代が到来し、
ケロロが一小隊を任せられ、隊長となる時が来るのだが、それはまた別の話である。
「ところで、その『画期的侵略方法』ってどんなの?ケロロくん」
「えっ!?えーっと・・・」
何も考えずに言ってみただけらしい。
あとがき
「I'm Gonna SCREAM+」の次に書いた話です。
2連続で周囲が血生臭いことになってます。
タイトル元ネタ … mihimaru GT